[ やさしいよる (sample) ]



sample1.夜の子供

 その晩、二人が家路につけたのは、日が変わる直前のことだった。
 ここ最近かかりきりだった大きな事件の後始末がようやく終わり、なんとか
もぎ取った三月ぶりの休日を有意義に過ごそうと、激は兵舎へ帰ろうとしてい
た現朗の手を引き、自分の長屋へと誘った。
 断るのも億劫だと思ったのか、はたまた翌朝の飯に釣られたか、珍しく二つ
返事でついて来た現朗に激は素直に喜んだが、他の隊員の気配が消えるや途端
に覚束無くなる足取りに相当な疲労を見て取って、今日は存分に休めてやらな
ければ、など思ったりした。

 激の予測通り、長屋に着くや現朗は「お邪魔します」と形だけの挨拶を、
中で寝ているだろう少年の眠りを妨げぬくらいの小さな声で済ませると、客用
の布団が一揃え積んである山へ直行し、そのまま崩れ落ちた・・・・・・


〜〜〜〜〜〜

sample2.雨と片恋(オマケのWEB再録)


良い天気だァ、と呟けば、背後で笑う気配がして、晴れの日が良く似合うというようなことを言われた。
雨の日も好きだけど、と言えば、興味なさ気にオマエは何でも好きなんだろと返される。

そりゃ確かに、俺には好きなものなんて、沢山あるさ。
(わりとなんでもいい主義のオマエよりは少なくとも!)

でも、その分嫌いなものも多いし、特別好きなもんでもなけりゃ、わざわざ口に出して言ったりも、しないんだけど。

「ホンとに、好きなんだけどなァ……」

重ねて呟けば、呆れたような溜息だけ返った。



現朗には、雨が似合う。